前回の記事に引き続き、ベネッセの6月度に行われた共通テスト模試の【小説】の解説を行っていきます。基本的考え方として、この記事《 現代文読解における基本的解き方(まとめ版)》を用いているのでまずはこちらの記事を読んでいただけると嬉しいです。それでは早速、本文解説から行っていきます。
【本文解説】
基本的に小説文を読むときに重要となることは、登場人物の心情の移り変わりを追っていくことである。その点を読み取るためには、会話はもちろん風景描写や、行動の描写などにも目線を向けていく必要がある。そのため、解説でもそれらの感情の動きがわかる部分を取り上げていくこととなる。
〈前提〉 本文を読み始める前に、本文の事前説明は確認しておく必要がある。
・登場人物 おくみ:主人公。おかみさんに頼まれ、画家である「青木さん」の家に住み込みで手伝いに。心穏やかな日々を過ごしている。 青木さん:妻を亡くした画家。弟と子供がいる。東京在住である。 洗吉:青木の弟。受験のため東京に出てきている。 久男:青木の一人息子。坊ちゃんとも呼ばれる。四歳。
〈1~21行目〉 青木とおくみの会話⇒場面は摘んできた桑の実を二人がつまんでいるところから始まる。
・1~4行目 青木さんの言動 「何かを言おうとして~ように」「このまま私の家に~」「思い出したように」「それが言いたかったご様子」「お嫁に行くまで~」「遠慮らしく軽くそうおっしゃる」 ⇒これらの言動から、ためらい、恥じらいつつも、おくみにこの家に留まってほしいという思いをはっきりとではないが伝えている。明らかな好意を抱いているといってよい。
・5、6、10行目 おくみの言動 「何だか暗に寂しいような気分」「はずかしそうに」「ございませんし…」 「指先に目もとを集めて」「顔を赤らめて」 ⇒これらの言動から、おくみも青木さんの言動に恥ずかしさを覚えている。しかし、一緒にいたいという気持ちをおくみも持っているということがわかる。こちらも好意を持っているのである。
・12、13行目 青木さんの言葉 「のんびりした気分」「日向の中へ出たように」「愉快なものが描けそう」⇒おくみが来てから、青木の生活は明るいものとなったということがわかる。それまでは妻が死んでしまい、日陰の中にいたようだったが、おくみが来たことで気持ちが好転し、ポジティブになれた。
・20行目 風景描写 「大分日も低くなった」⇒時間の経過を表している。時が経ったということではあるが、青木さんとの会話はとても長くあっという間に過ぎてしまったものとおくみが感じているということとも解釈できる。また比喩として、青木とおくみの関係が深くなったという風に解釈することも可能ではある。
〈22~38行目〉 忙しい青木とそれに気を使いつつ家事にいそしむおくみ
・28~30行目 おくみの心情 「遠慮」「邪魔になっては悪い」「どんな画が~見えなかった」⇒青木の仕事と体調を心配し気にかけつつも、邪魔になってはよくないと気を使っている。絵の出来栄えに関しても興味を持っており、これは後の文章に関係している。
〈39~95行目〉 青木とおくみの会話⇒細かく表現されていく心情をつかんでいく必要がある重要な場面
・42~57行目 おくみの心情、言動 「自分のものが出来でもしたように」「自分たちの目では~引き付けられるようなしっとりとした色になっている」「好きでございますわ」「すっかりが」「青木さんが~かもしれない」 ⇒57行目までは、おくみの青木が描いた画に関するファーストインプレッションを基本的には読んでいくことになる。 おくみは絵を完成するのを内心では期待しつつ待っていた。実際に完成した絵を見ると、その出来は青木さんが描いたものであるから余計によく見えるということを考慮しても素晴らしい出来だと思えたのであった。否定的な感情は一切でてきていない。
・58~71行目 青木の問いかけとおくみのそれに対する返答を交えた会話 「黒い目を上げて青木さんのお顔を見上げながら」「自分の感じる心持~極り悪くこう言った」「愉快になりますか」「微笑みながら」「寂しいような気になってまいります」「ためらいながら正直に言った」「自分まで~得たように」 ⇒青木に絵を見ていてどんな感情が浮かぶか問われたおくみであったが、うまい言葉が出てこなかった。青木が促すようにさらに問いかけると、おくみは望み通りの解答になっていないのではと心配しつつも正直に寂しい雰囲気を感じ取ったと伝えた。しかしその答えは、青木の考え通りであり青木はそれを聞いて喜んだ。 おくみ自身も、青木の喜びの感情に感化され、まるで自分が何か素晴らしいものを得たかのような気分を感じた。好意を抱いている人物の心情には感化されやすいのが人間である。
〈72~95行目〉 青木の驚きの提案と、それに対するおくみの返答を交えた会話と心情
・72~83行目 青木の提案とそれに戸惑うおくみの言動 「真面目になって」「御冗談だというように」「困惑しつつ」「お礼に上げる」「「寂しいところを~悦んでくれた」「私がいつも寂しいから~つとめて笑いながら仰る」 ⇒青木はできた絵をおくみに上げようかと提案する。おくみは戸惑って、返答に困ってしまい遠慮するが、青木はお礼だという。絵の寂しさを理解してくれたことと完成を悦んでくれたことへのお礼という理由ではあるが、青木がいつも寂しいからという言葉を言っていることに注目。やはり妻が死んだことへの寂しさは抜けきってはおらず、我慢して寂しさに耐えているのであった。それを正直に打ち明けられているというのは、おくみの存在がどれだけ大きいものかということなのかともとらえられる。
・84~95行目 おくみの言動と心情 「黙って下目になっていた」「冗談ですよ」「改まってお辞儀をした」「真面目にならなくてもいいや」「微笑みながら」「訳もなく涙ぐまれるような目」「しみじみした心持」「おくみの目もとを見ないように」「涙になりそうな心持を隠しながら」 ⇒冗談だよと青木はごまかしそれをおくみは受け取ったが、実際のところおくみは青木の寂しさを抱えた心に気づいているのである。そのため、冗談めかしつつも内心では寂しさを抱えている青木の言動につられて、おくみ自身も悲しい感情となっている。しかし、根底にあるのは青木のおくみへの愛情からくる、内心の吐露と自分の内心を理解してほしいという気持ちだということが考えられる。
これで【本文解説】は終了となります。青木とおくみの間にある愛情の機微を感じ取りつつ読み進めていくことが重要となります。それでは次に、【設問解説】を行っていきたいと思います。
【設問解説】
・問1 (ア)~(ウ)の本文中における意味として適当なものを選ぶ設問。文脈に沿ったものを選択することが必要で、傍線部周囲の本文と照合し解いていく。
(ア)得言わないで
選択肢①:「無理な願い」と「言葉を濁して」という記述が不適当。
選択肢➁:「ずっと結婚せずに」「言いかけて」が不適当。
選択肢③:「結婚するのはまだまだ先の話だ」という記述が不適当。
選択肢⑤:「平河さんのおかみさんに承知してもらうのは難しい」という記述が不適当
選択肢④:これが正解。「え~ず」という形の言葉は、「~できない」という風な訳し方になる。そのため、(ア)は「いうことができなくて」という訳となることから、語尾の訳し方が適当な④が正答となる。
(イ)砕いて
選択肢①:「繰り返して」という記述が不適当である。
選択肢③:「親しみを込めて」という記述が不適当である。
選択肢④:「いらだちを悟られぬように」という記述が不適当である。
選択肢⑤:「話しやすいように」という記述が不適当である。
選択肢➁:これが正解となる。この場面では、青木がおくみに対して答えにくい質問を聞いたのち、おくみが返答に窮してしまったシーンであるため、文脈から読み取れる。「かみ砕いて説明する」などともいうことを思い出す。
(ウ)もじもじしていた
選択肢①:「あれこれ悩んで」という記述が不適当である。
選択肢➁:「何もできない」という記述が不適当である。
選択肢③:「後ろめたくて」という記述が不適当である。
選択肢④:「恥ずかしくて」という記述が不適当である。
選択肢⑤:これが正解となる。青木に完成した絵をあげるといわれて、おくみはとまどい遠慮をしている。
・問2 本文冒頭から21行目までの青木とおくみの関係や言動についての設問。ヒントとして、問1の(ア)を用いることができる。おくみは「このまま青木さんのもとにいたい」のである。
選択肢①:「嬉しさを禁じ得ず」「一人では何もできなくて寂しさを感じている」という記述が不適当。これらの心情は、本文の記述にはない。
選択肢➁:「真意を測りかねて困惑した」という記述が不適当である。本文におくみのこのような心情を読み取れる表現はない。困惑は明らかにしていない。
選択肢④:「結婚の当てもないことがはずかしくて」という記述が不適当。本文から、おくみが結婚の当てを探しているなどというようなことは読み取れない。あくまで単純な事実をおくみは述べているだけである。
選択肢⑤:「有頂天になり」「拍子抜けしてぼんやり」という記述が不適当。そのような心情は本文に書かれておらず、読み取ることもできない。
選択肢③:これが正解となる。5行目や10行目などのおくみの感情と合致している。互いのころの距離が縮まっていることは【本文解説】でも説明した通りである。
・問3 傍線部A「じっとこの画を見ているとどんな気がします」に関する設問。このときの青木について説明したものとして適当な選択肢を選ぶ。「このとき」と問題に書いてある通り、傍線部周辺の読み取りを正確にしていく必要がある。
選択肢①:「ためらいつつもおくみの気持ちを確かめようとしている」という記述が不適当である。このときに青木さんがためらいを持っているということは本文からは読み取れない。また、「気持ち」という言葉はこの場面ではあまり当てはまらないといえる。ここでは基本的に更なる感情や感想を問うている。
選択肢➁:「見当違いなところ」という記述が不適当。見当違いでなく、事実寂しい気持ちを持っていたということを青木さんは認めているため、これは明らかに間違いであるといえる。
選択肢③:「正直に告げる」という記述が不適当。青木さんが描いたからよく見えるという言葉はおくみの内心の心情であり、告げていない。
選択肢⑤:「ぜひおくみに「この画」を贈りたいと考えている」という記述が不適当。これは引っかかってしまうかもしれないが注意が必要。このときの段階では、まだ画をあげようとは考えていない。答えを聞いたのちに上げようという気持ちになったのである。
選択肢④:これが正解となる。「わかってもらえているようで」というようにこの段階での、青木の心情を推定する表現になっており、この段階での青木について読み取れることとして適当。
・問4 傍線部B「改まってお辞儀をした」に関する設問。このときのおくみの様子について説明したものとして適当なものを選ぶ。問3と同じく、「このとき」という指定があることに注意する。
選択肢➁:「はぐらかすような態度をとったことを後悔」という記述が不適当。このときのおくみの心情として、後悔の気持ちはまったく読み取れない。
選択肢③:「冗談なのか本気なのか~おさめようとしている」という記述が不適当。このときおくみは正確に青木の隠している心情や気遣いを理解しており、区別がつかないということは明らかに間違いであるといえる。
選択肢④:「思わず本当の気持ちを言ってしまった青木」という記述が不適当。思わずという言葉はこの部分から読み取ることはできない。言いたいと考えたうえで、青木は言葉を選んでしゃべっていたとわかる。
選択肢⑤:「あれこれかわすおくみ」「申し訳なさと感謝の入り交じった気持ち」という記述が不適当である。あれこれといえるほど青木の提案を断っているとは言えないうえ、画をもらうことに申し訳なさを感じているとは読み取れない。
選択肢①:これが正解となる。この選択肢は特に間違いは見受けられず正解となるのだが、最初に読んだだけで正解とするには根拠が薄い選択肢である。そのため、消去法で選択することが安全である。
・問5 文章について適当でないものを二つ選択する。解答の条件には注意しておく必要がある。
選択肢➁:適当である。この日常生活の描写は、場面転換としてもとらえられる。
選択肢④:適当である。直接的に心情を伝えたくない場合、このように間接的にお互いの気持ちを伝えあっているというのは良くある表現であるといえる。
選択肢⑤:適当である。この文章は常時おくみの視点で描かれている。
選択肢⑥:適当である。青木さんは寂しさを確かに抱えており、直接的には語られることのない「微妙な」心の触れ合いを描いた作品であるといえる。
選択肢①:「おくみの燃えるような恋心」という記述が不適当。この文章に燃えるような激しい恋心というものを読み取ることはできない。淡い、間接的な描写である。⇒×
選択肢③:「特に読者の気を引きたい箇所には傍点が」という説明が不適当。「ふうわり」や「つやつや」などの擬音語、人名などに傍点がつけられているのは読みやすくするためである。「おくみ」と「おふみ」など区別がつきにくいものに傍点を付すことで、わかりやすくしている。
・問6 『桑の実』の解説として本文68行目が取り上げられており、その考察の空欄に当てはまる本文中の表現として適当なものを選択する。ここでは【解説】として記載されている考察の、空欄の後の文章を読み適切な選択肢を選ぶことがポイントである。
選択肢➁:不適当。
選択肢③:不適当。
選択肢④:不適当。
選択肢⑤:不適当。
選択肢①:これが適当である。空欄後の文章を読むと、「三重吉の心情そのもの」と書かれておりここから空欄部には、心情がかかわっている選択肢が当てはまると考えられる。また、「神経衰弱で苦しむ三重吉」という記述から、青木さんが三重吉の投影であることからも青木の心情を書いており、さらに「暗いところ」というマイナスな感情が含まれているこの選択肢が適当と明らかにいえる。
以上で【設問解説】を終わります。ここまでお読みくださりありがとうございました。
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